いつもあった店や施設がなくなってから、「ここにあった風景が好きだったんだな」と気づくことがあります。建物はなくなっても、そこで過ごした時間や人との思い出まで消えてしまうわけではありません。
『オオサカスケッチ』エリア担当ライターのコウノです。今回ご紹介するのは、大阪・十三の第七藝術劇場で上映されている映画『沼影市民プール』。埼玉県さいたま市に実在した市民プールの最後の日々を記録した作品です。
作品関係者からオンライン試写の機会をいただき、実際に作品を鑑賞しました。最初は「閉鎖される市民プールを記録した映画」というイメージで観始めたのですが、印象に残ったのは施設そのもの以上に、そこで働く人や利用する人、それぞれがこの場所に持っていた思いでした。
この記事では、『沼影市民プール』がどんな作品なのか、実際に観て感じたこと、そして十三・第七藝術劇場での上映情報を紹介します。
映画『沼影市民プール』とは
『沼影市民プール』は、埼玉県さいたま市にあった沼影市民プールの最後の夏を記録した、太田信吾監督によるクリエイティブ・ドキュメンタリーです。
沼影市民プールは1971年、「海なき市にプールを」という市民の願いから誕生しました。「沼プー」の愛称で親しまれ、52年間で約600万人が訪れたとされています。
子どもたちが遊ぶ場所であり、健康づくりの場所であり、人と人が出会う場所でもあった市民プール。しかし2022年、さいたま市は屋外プールを解体し、新たに小中一貫校を建設する計画を発表します。
映画では、そんな沼影市民プールが最後の夏を迎えるまでの日々と、そこに集まる人たちの姿が映し出されています。
作品は80分。精神科医エリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「死の受容の5段階」をモチーフに、公共の場所がなくなっていくことと、それを受け止めていく人々の姿を描いています。
印象に残ったのは、プールを支えていた人たち
実際に作品を観て、僕が特に印象に残ったのが、沼影市民プールで働いていた方々の姿でした。
市民プールというと、どうしても泳いだり遊んだりする側から見てしまいます。でも映画の中には、利用者の安全を守るために研修を重ね、日々プールを支えてきた人たちの姿があります。
長く続いてきた施設には、利用してきた人の思い出だけではなく、そこで働いてきた人たちの時間も積み重なっているんですよね。
「市民プールが閉鎖される」という出来事を追っているはずなのに、観ているうちに、建物ではなく、その場所をつくってきた人たちを見ているような感覚になりました。
場所がなくなったら、思い出はどこへ行くのだろう
この映画を観ながら考えたのが、「建物がなくなること」と「場所がなくなること」は、同じなのだろうかということでした。
プールが解体されても、そこで泳いだことや、友達と遊んだこと、働いたことまでなくなるわけではありません。
ただ、その記憶と結びついていた風景には、もう戻れなくなります。
毎年夏になると行っていた場所。いつもの人と顔を合わせる場所。子どものころから当たり前のようにあった場所。そうした場所は、施設としての役割だけではなく、知らないうちに一人ひとりの記憶の一部になっているのかもしれません。
『沼影市民プール』は、施設を残すべきか、なくすべきかという話だけではなく、場所を失う人たちの気持ちにもカメラを向けています。
大阪でも「いつもの場所」は少しずつ変わっている
舞台は埼玉県さいたま市ですが、地域メディアをやっている僕にとって、決して遠い街だけの話には感じませんでした。
大阪でも、人口や街のあり方が変化するなかで、学校や公共施設、昔からある店など、地域の人にとって馴染みのある場所が姿を変えることがあります。
もちろん、それぞれに事情があり、沼影市民プールと大阪で起きていることを同じものとして考えることはできません。
それでも、「いつもそこにあった場所がなくなるとき、その場所で過ごしてきた人の思いをどう残すのか」という問いは、どの街にも関係することなのではないでしょうか。
普段、オオサカスケッチでは開店や閉店、地域のイベントなど、街の変化を追っています。新しく生まれるものを記録する一方で、なくなっていくものをどう記録するのか。この映画を観て、地域メディアとしても考えさせられるところがありました。
「記録すること」と「映画として表現すること」
もう一つ興味深かったのが、この作品の表現方法です。
『沼影市民プール』は、起きていることをそのままカメラで追い続けるだけのドキュメンタリーではありません。一部には演技による再構成が用いられており、現実を記録することと、映画として表現することの境目についても考えさせられます。
なぜ、この出来事をこのような方法で残したのか。実際に存在した場所や、そこで過ごした人たちを記録するとき、どこまでが記録で、どこからが表現なのか。
このあたりは作品を観て僕自身も気になったところでした。
『沼影市民プール』は十三・第七藝術劇場で上映中
映画『沼影市民プール』は、2026年9月19日から大阪・十三の第七藝術劇場で上映されています。
9月19日の初日には、太田信吾監督による上映後の舞台挨拶も行われました。
9月29日現在、第七藝術劇場では10月4日までの上映予定が案内されています。上映時間は日によって異なるため、観に行く前に第七藝術劇場の最新スケジュールをご確認ください。
上映情報
- 作品名:『沼影市民プール』
- 監督:太田信吾
- 上映時間:80分
- 大阪上映:第七藝術劇場
- 上映開始:2026年9月19日(土)
- 上映予定:2026年10月4日(日)まで
- 所在地:大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポードシティ6F
第七藝術劇場は阪急十三駅から歩いて行けるミニシアターです。梅田から十三までは阪急電車で一駅なので、大阪キタからも足を運びやすい場所にあります。
ひとつの市民プールがなくなっていく49日間。その先に見えてくるのは、埼玉にあった一つの施設だけの話ではなく、自分の街にある「いつもの場所」のことかもしれません。
普段何気なく通り過ぎている場所にも、誰かの時間や思い出が積み重なっています。『沼影市民プール』を観たあと、いつもの街の風景が少し違って見えるかもしれません。
※本記事は作品関係者より作品情報・画像素材およびオンライン試写をご提供いただき、実際に作品を鑑賞したうえで作成しています。上映情報は2026年9月29日時点のものです。最新情報は劇場でご確認ください。












